第1回「味噌ものがたり大賞」受賞者発表!!

特別賞なないろとまと 様

十九年前の桜の季節、私は愛知県で研修医として働き始めた。病院の食堂では愛知らしく必ず赤だしの味噌汁が出たが、他県出身で信州味噌で育った私は、どこかその味に馴染めないまま、数年後異動で愛知を離れた。
医師になって十五年が経とうとする頃、コロナのパンデミックという未曾有の事態に遭遇した。対応に右往左往し、不安に押し潰されそうだったある日、私はふと研修医時代を思い出し、そして気付いた。
「あの頃共に働いた恩師や仲間も、きっと今それぞれの場所で奮闘している。私は一人ではない。」と。その日私は初めて愛知の赤だし味噌を買い、味噌汁を作った。あの頃は少々苦手だった力強い赤だしの味は私を励まし勇気付け、背中を優しく押してくれた。
季節は巡り、私はコロナが5類感染症へ移行するのを見届けた。そしていつの間にか赤だしが大好きになっていた。過ぎた懐かしい日々を胸に、今日も私は味噌汁を作っている。

審査員長 松浦弥太郎の評

かつて馴染めなかった赤だし味噌。しかし、時を経て試練の中で寄り添う存在となり、過ぎ去った懐かしい日々や大切な仲間たちの記憶を呼び起こしてくれるようになり、今では、その味噌が今日の自分を支えてくれているのだと気づかされる、心あたたまるエッセイです。