第1回「味噌ものがたり大賞」受賞者発表!!
優秀賞安斎結子 様
私がまだ幼かった頃、母が不在の日に、父が台所に立つことがあった。父の味つけは、なんでも味噌だった。肉や魚の切身を焼いて、味噌をまぶす。きゅうりやキャベツをばつんと切って、味噌をのせる。朝のトーストにジャムではなく、味噌が添えられたのには閉口したが、バターが溶けたところに味噌を合わせてみれば、これが意外と合うのだった。
主食が白米でもパンでも、味噌汁が出された。だし用の煮干は、母はハラワタや頭を取っていたが、父はおかまいなしに、そのまま入れる。そして、お椀に1匹ずつよそう。さすがに文句を言えば「クジラの味噌汁だ」と楽しそうに父は言う。お椀に横たわる大きな煮干は、かたくて苦い。渋々口に運び、噛みしめるうち、出がらしなりに旨味を感じた。
私は今、家族のために日々味噌汁を作っている。母には手順や塩梅を教わったが、味噌の風味と煮干の旨味とともに、父には滋味を教わったと思っている。
審査員長 松浦弥太郎の評
お味噌汁は単なる一杯の料理ではなく、家庭の歴史や家族の個性を映し出す鏡のような存在だと感じました。このエッセイでは、お父様のユーモアあふれる「クジラの味噌汁」をはじめ、お味噌汁が食卓を超えて家族の絆を織り成し、日々の中でさりげなく深い愛情を教えてくれる特別な料理として描かれています。