第1回「味噌ものがたり大賞」受賞者発表!!
大賞まつ 様
上京して一人暮らしをする私に、祖母は何度も同じ言葉をかけた。「具沢山のお味噌汁を作るんだよ、それだけでいいから。」
朝ご飯にパンを食べたことの無いような、古風な家だったので、朝は必ずご飯と、たっぷりの具が入った味噌汁が付いた。朝の台所では、分厚い木のまな板の上で、重みのあるなた包丁が良い音を立て、短冊切りの大根や人参が切られる。そこに季節物や残り物の具材が加えられ、朝の味噌汁が作られる。
学校の長期休みには、朝の味噌汁が少し多めに作られ、お昼時になると、残った朝の味噌汁に、ご飯と卵を入れておじやにして食べる。煮込んだご飯のとろみと、卵が入った味噌汁は、朝とはまた姿を変え、たまらなく美味しくておかわりもしたくなるほどだ。でも、「朝の残り」で作られたおじやには限りがあるので、一杯を大事に食べていた。
自分が台所の主人になった今、この味噌汁に体と心を支えられている。
審査員長 松浦弥太郎の評
お味噌汁がある日々の暮らしが生き生きと心に浮かびますね。残りのお味噌汁から生まれるおじやの懐かしくやさしい味わい。そしてご祖母さまの「具沢山のお味噌汁」という言葉のぬくもりが伝わってきました。家族への愛をやさしく包み込んだ、すばらしいエッセイです。