第1回「味噌ものがたり大賞」受賞者発表!!
優秀賞小春 様
人生最期に食べたいものは何かと聞かれたら、「母の味噌汁」と答えると思う。
広島の山間にある実家の朝ごはんは、決まって白米に味噌汁と漬物だった。味噌汁の具もほとんど毎日同じで、えのき、細く切った人参にしいたけ、もやし、油揚げ、豆腐、仕上げに小口切りのネギ。少しとろみのあるその味噌汁は、具材の出汁に味噌の旨みと少し甘味もあって、毎日食べても「あぁ、おいしい」と思う、母の一番の手料理だった。
コロナ禍の4年前、自宅での転落事故で下半身が不随になった母は、以降台所に立てなくなってしまった。今は八十年以上料理などしたことのなかった父が、ベッドの母からのアドバイスをもとに毎朝味噌汁を作る。「お父さんの味噌汁はおいしいんよ」と、優しい父の横で、母は明るく話す。
目を閉じると今も思い出す、母の味噌汁の味。幼い頃の記憶と共にそれは、これからも私を支えてくれる一杯であるに違いない。
審査員長 松浦弥太郎の評
このエッセイを読んで、一杯のお味噌汁に込められた深い愛情と、家族の絆の大切さを改めて実感しました。その香りや味わいは、幼い頃の思い出を鮮やかに呼び起こし、お味噌汁には家族の物語が詰まっていることに改めて気づかされました。