第1回「味噌ものがたり大賞」受賞者発表!!

特別賞ぐぐ 様

檜のまな板の上には刻んだ小松菜。隣には油揚げが並んでいた。「せっかくだから味噌汁作ってみる?」母の提案に戸惑いつつも、やってみることにした。
黒釉の綺麗な壺から、木べらで味噌を掬う。晩秋に有馬で買った竹で編んである味噌漉しの中に、少しのそれを入れ、尺の長い菜箸を不器用に使いながら混ぜた。味噌のいい香りが部屋いっぱいに広がった。
母は「味噌はゆっくりとくと美味しくなるんだよ」と味噌を早くとこうとするせっかちな私に味噌汁を美味しく作るコツを教えてくれた。できた味噌汁はいつもよりほんのりと甘かった。
その日から味噌汁を作るのは私の仕事になった。大人になった今でも、味噌汁を作る時にふと母の言葉を思い出す。一杯の味噌汁が心を温めてくれる。そして、時にはゆっくり生きることの大切さを教えてくれる。今日は少し贅沢をしてかぼちゃを入れようか。

審査員長 松浦弥太郎の評

「味噌はゆっくりとくと美味しくなるんだよ」。このお味噌汁をおいしく作るための小さなコツに、はっとさせられました。お味噌汁をつくるたびに、このお母様の言葉がふとよぎる――そんな瞬間のしあわせが、心に伝わってきます。「早く」ではなく、「ゆっくり」。このエッセイは、そんなていねいで穏やかな生き方の大切さをそっと教えてくれます。